副腎に発生する腫瘍の多くは良性腫瘍で、他の臓器やリンパ節に転移することはありません。ただ、からだに不可欠なホルモンを産生・分泌する、という副腎本来のはたらきをもった腫瘍(腺腫)ができると、過剰なホルモン量が体内に分泌されます。
良性腫瘍
- クッシング症候群
副腎の腺腫がコルチゾールというホルモンを過剰分泌することで、肥満や脱毛、挫創(にきび)、筋力低下などが症状として現れます。血中のホルモンを測定する検査や画像検査によって診断し、手術によって症状は改善します。 - 原発性アルドステロン症
副腎の腺腫がアルドステロンというホルモンを過剰に分泌し、高血圧や体内のミネラルバランスが崩れる、といった状態が引き起こされます。他の腫瘍に比べ、比較的小さな腺腫でも症状が現れやすく、血液検査や画像検査に加え、血管カテーテル検査によって原因となっている腺腫が右か左か判定され、手術が必要となります。 - 褐色細胞腫
副腎の中央(髄質、ずいしつ)にできた腫瘍がカテコールアミンというホルモンを過剰に分泌することで、糖尿病や高血圧、頭痛、動悸、発汗などの多彩な症状を呈します。血液検査と画像検査が行われ、手術によって治療します。少数ですが一部に悪性、両側性、家族性などが報告されています。 - 非機能性腺腫
副腎に発生した腺腫のうち、ホルモンを分泌していない腺腫のことを非機能性腺腫とよび、約半数がこれにあたります。副腎骨髄脂肪腫もこれにあたります。症状がない副腎腫瘍のうち、ホルモンを産生しても症状として出現していない状態はサブクリニカルとよばれ、後に手術が必要となる場合があります。非機能性か、サブクリニカルかを判定するために血液や尿の検査、画像検査を実施します。非機能性腺腫と診断されれば手術は必要ありません。
治療
- 手術療法
ホルモン産生腫瘍は、転移をしない良性腫瘍であっても手術が必要となります。ホルモンを過剰に分泌する代表的な疾患として、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫が重要です。ホルモンを分泌しない腺腫は、非機能性腺腫とよばれ、必ずしも手術を必要とはしません。ただし、4-5cmを超える大きな腫瘍の場合には、手術をお勧めすることがあります。
悪性腫瘍
- 副腎がん
まれですが、副腎に癌が発生することがあります。腫瘍が大きいほど悪性の可能性が高いといわれています。希少であることから手術以外で特に有効とされている治療が確立されていないのが現状です。発見時に既に手術が困難なほど大きくなっていたり、転移したりしている場合があります。 - 転移性副腎腫瘍
他の臓器にできた悪性腫瘍が、副腎に転移した状態です。病状によって手術を勧められることもありますが、通常は転移を伴う悪性腫瘍の場合、化学療法などの全身療法が中心となります。
水腎症は腎臓でつくられた尿が尿管から膀胱へと流れにくくなり、腎臓の内部(腎盂・腎杯)に尿がたまっている状態をいいます。生まれつき水腎症になっていることもありますし、ごく軽症な尿のたまり生理的な範囲内で正常な人にも認められることがあります。成人の水腎症で最も多い泌尿器科的な原因は尿管結石で、次いで腫瘍、排尿機能の障害です。排尿機能の異常では尿が膀胱から出せず、満杯になった膀胱へ尿が流れないため左右両方が水腎症となることが特徴で、結石や腫瘍の場合には多くが左右どちらかであることが多く見られます。その他、外科や婦人科疾患など、泌尿器科以外の疾患によって尿が流れにくくなり水腎症となっていることもあります。
結石や腫瘍など、原因に対する治療が原則ですが、痛みを伴う場合は、尿管ステントや腎瘻(じんろう)によって、上流にたまった尿を応急的に腎盂から排出する手術・処置が必要になる場合があります。根本的な原因に対する治療が終了したら、原則として尿管ステントや腎瘻のない状態に戻って頂くことが可能です。
腎臓は体内の水分、ミネラルを一定に保つはたらきのほか、赤血球をつくるホルモン(エリスロポエチン)や骨の破壊と形成(骨代謝)にはたらくビタミンDを産生します。
そのため、腎臓の機能が低下している慢性腎臓病(CKD、シーケーディー)の状態になると、水分やたんぱく質、塩分などのミネラル制限が必要となり、ホルモンの補充も必要となります。
CKDが進行すると腎不全、すなわち腎臓がほとんど働かない状態となり、そのかわりとなる治療(腎代替療法)が生命維持に不可欠となります。腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植があり、根本的な治療は腎移植しかありません。
腎臓の機能低下や持続する蛋白尿といった慢性腎臓病(CKD、シーケーディー)に対する治療を実施しても腎不全の状態になった場合、以下の腎代替療法(じんだいたいりょうほう)を実施する必要があります。詳細は表に示す通りですが、島根大学ではすべての治療に泌尿器科が関与しています。腎代替療法を行っている方は身体障害者1級に認定され、ほとんどの治療費は公費から拠出されます。
①血液透析(HD) | ②腹膜透析(CAPD) | ③腎臓移植 (生体・献腎) |
|
---|---|---|---|
通院回数 | 週に3回 | 月に1回 | 1~3か月に1回 |
免疫抑制剤 | 不要 | 不要 | 不可欠 |
食事・水分制限 | 多い | やや多い | 少ない |
旅行・出張・ スポーツ | 制限あり | 制限あり | 自由 |
出 産 | 極めて難しい | 極めて難しい | 薬の調整で可能 |
小児の成長(身長) | 成長障害 | 成長障害 | 期待できる |
社会復帰率 | 中程度 | やや高い | 高い |
その他の利点 | 最も確立した腎不全医療法 | 血液透析に比べ自由度が高い |
|
血液透析の場合、主にバスキュラーアクセスと呼ばれる透析用の血管を作成する手術、週3回の維持透析の管理を行います。バスキュラーアクセスで最も多いのは腕や手首の動脈と静脈をつなぎ、静脈を発達させて針を刺すための血管とする内シャントを造設します。
腹膜透析の場合、腹膜の中(腹腔内(ふくくうない))に透析液を出し入れできるカテーテルを設置し、場所が悪い場合や他の腎代替療法に移行した場合には位置を調整したり、抜いたりする手術を行っています。
腎移植は腎不全に対する唯一の根治的(こんちてき)治療で、親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)から腎臓の提供をうける生体腎移植と、心臓死・脳死ドナー(提供者)から腎臓の提供を受ける献腎移植があります。腎移植にかかる検査や手術費用はほとんど公費(小児は育成医療、成人は更生医療)から拠出されるため、自己負担は個室にかかる費用や入院中の食費が中心となります。腎移植後は免疫抑制剤という薬を飲む必要がありますが、旅行やスポーツが可能となり、女性では妊娠出産、小児では成長(第二次性徴前であれば身長が伸びる)が期待できます。移植した腎臓は平均して約20年機能し、透析に比べ医療費の削減にもなるといわれています。
- 生体腎移植の場合、提供するドナーの条件(年齢、体格、腎機能、基礎疾患など)がクリアされていれば、血液型が異なっていても腎移植は可能です。
- 献腎移植の場合には日本臓器移植ネットワークに登録し、現時点では成人の場合約16年で腎移植が受けられます。登録時には登録料と検査料合わせて5万4千円、毎年の更新時には5千円が必要となります。
腎移植
腎移植は腎不全に対する唯一の根治的(こんちてき)治療です。親族の生体腎移植と、心臓死・脳死ドナーからの献腎移植があります。
生体腎移植ドナーの手術は、手術歴などの条件が整っていれば体腔鏡(たいくうきょう、内視鏡)を用いて小さな傷で腎臓を摘出する「後腹膜鏡下ドナー腎採取術」を行い、開腹手術による腎臓の摘出を行う場合もあります。後腹膜鏡下ドナー腎採取術でできる創(傷)は、5〜12mmの創が脇腹に3〜4か所、下腹部に腎臓を取り出すための約6cmの創が1か所となります。手術時間は約3時間、出血量は50mL以下の予定です。入院期間は7〜10日の予定です。
ドナーから摘出された腎臓はレシピエントの部屋に慎重に運搬し、動脈から保護液を流し、レシピエントに移植するための準備作業を行います。
腎臓の提供を受けるレシピエントの手術は、通常下腹部を15~20cm開腹してドナーから提供された腎臓を移植します。動脈と静脈を吻合(ふんごう、つなぐこと)し、血流を再開して早ければ10分以内に初尿(しょにょう、レシピエントの血液からつくられた初めての尿)が確認されます。尿管と膀胱を吻合し、手術を修了します。手術時間は約6時間、出血量は200mL未満の見込みです。入院期間はレシピエントにもよりますが、腎移植前1〜2週前に入院して頂き、多くは腎移植後3〜4週で退院となります。
腎がん(腎細胞がん)
腎がんは腎臓の外側を形成している腎実質から発生する悪性腫瘍です。腫瘍の大きさや周囲への浸潤(しみこんで広がること)、静脈内腫瘍(栓)の有無、転移の有無で腎がんのステージが決まります。
治療
- 手術療法
手術は、可能であれば腎部分切除(がんに周囲の正常な部分をつけて切除)、難しければ腎摘除(腎を全て摘出)を行います。当院での腎部分切除は、可能な限り手術ロボットを操作して実施し、腫瘍の大きさや位置によって難しければ開腹手術を行っています。腎摘除は原則として腹腔鏡手術を、巨大な腫瘍や静脈内腫瘍栓を伴う場合には開腹手術を行います。 - 凍結療法・ラジオ波焼灼療法
当院では腎がんに対する凍結療法、ラジオ波焼灼療法は実施しておりません。そのため、必要に応じて実施している施設へご紹介し、治療後は当院に通院して頂けます。 - 薬物療法
以前は免疫療法(インターフェロン、IL-2: インターロイキン2)のみが有効な治療として実施されていましたが、現在では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤といった薬物療法も実施されています。
手術や薬物療法を組み合わせることで、以前より長期予後が期待できるようになりました。薬物療法の種類は多く、副作用も含めて対応しております。
尿路上皮がん(腎盂がん・尿管がん・膀胱がん・尿道がん)
膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、尿道がんは、尿路上皮から発生するため、まとめて尿路上皮癌と呼びます。
腎盂がん・尿管がん
腎臓の内側にあって生成された尿が通過する腎盂・尿管にできたがんを腎盂がん・尿管がんといいます。がんの種類としては膀胱がんと同じですが、膀胱にくらべて腎盂や尿管の壁が薄く、発見時には進行がんであることが少なくありません。症状としては血尿がもっともよくみられます。
診断は尿中のがん細胞の有無(尿細胞診)、X線撮影・CTやMRIなどの画像検査、内視鏡(腎盂尿管鏡)による生検(少量の組織による病理診断)が実施されます。
治療は手術を中心に薬物療法がよく実施されます。
- 手術療法
転移のない進行がんであれば腹腔鏡を用いた腎尿管全摘除術が第一選択です。手術は腹腔鏡で実施し、下腹部を10cm程度切開して腎・すべての尿管・一部膀胱まで摘除します。早期がんで腫瘍の悪性度が低ければ、腎盂尿管鏡による内視鏡治療をレーザーや電気凝固による腎温存手術を実施しています。内視鏡治療の場合には、治療後3か月おきに入院して頂き、全身麻酔で内視鏡による再発の有無を確認することが必要となります。 - 薬物療法
手術の前後に抗がん剤による化学療法を実施することがあります。そのほか、免疫チェックポイント阻害剤という新規薬剤を使用することもあり、予後が改善しています。
膀胱がん
膀胱は腎臓で作られた尿を貯留し、一定程度貯まったら排出するための袋状の臓器で、腎盂や尿管と同様に尿路上皮という粘膜で覆われています。膀胱癌とは、膀胱の尿路上皮(粘膜)より発生する癌をいいます。男性は女性の3倍、喫煙者は非喫煙者の2〜3倍の発生率といわれています。歴史的には染料を扱う職業に多く発症したことが知られています。
膀胱癌の多くは粘膜内でとどまる表在性のものですが、膀胱を越えて広がりリンパ節や他の臓器に転移をすることもあります。
症状
排尿症状や痛みなどを伴わない無症候性肉眼的血尿がよくみられる症状です。膀胱炎、尿路結石でも肉眼的血尿を認めますが、その多くは排尿症状や痛みなどの症状を伴います。ただし、膀胱癌でも膀胱炎の併発や、腫瘍部に結石ができることもあるため、膀胱炎を繰り返す場合は膀胱がんがないかどうか精密検査することが必要です。膀胱がんが進行すると、膀胱炎や結石がなくても頻尿となり、痛みを生じることもあります。
診断
尿検査で血尿の有無を確認し、尿の細胞の検査で尿中癌細胞の有無を調べます。さらに、侵襲のない超音波検査により、膀胱内の腫瘍の有無を確認します。
これらの検査で膀胱癌が疑われた場合は、尿道よりカメラを膀胱内へ挿入する膀胱鏡検査を行い、内視鏡的に腫瘍の有無を確認します。生検と呼ばれる組織検査をすることもあります。
膀胱癌と診断されたら、MRI検査で病期診断、つまり癌の浸潤の有無を調べます。また、CT検査で、転移の有無や腎盂尿管癌の併発の有無、鑑別診断などを行います。
治療法
最も有効性(根治性)の高い治療は手術療法です。手術療法を軸に、補助的に抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法や、上皮内癌などにはBCG膀胱内注入療法を行います。また、状況によっては放射線療法を実施する場合もあります。
- 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)
膀胱粘膜に限局した癌では、内視鏡で観察しながら、高周波電気メスを用いて腫瘍を根元から切除します。膀胱癌の多くは表在性で転移をおこしにくく内視鏡的に切除できますが、約半数は再発し再手術が必要となります。当院ではPDD(光力学診断)を併用することで治療成績の向上に努めています。 - 膀胱全摘除術
膀胱筋層以上に広がる浸潤性の膀胱癌は内視鏡では完全に切除できないため、膀胱全摘除術が必要になります。男性では前立腺、場合によっては尿道をすべて一緒に摘出します。女性では膣の前壁、場合によっては子宮を一緒に摘出します。膀胱の周囲のリンパ節も広範囲に摘出します。膀胱がなくなるため尿路変向術という排尿路を作る手術も同時に行う必要があります。
当院ではロボットで膀胱全摘除術を行い、体への負担軽減に努めています。尿路変更術には回腸の一部を使用した回腸導管、代用膀胱である回腸新膀胱や直接尿管を皮膚に出す尿管皮膚ろうなどがあり、いずれも当院で対応可能です。
放射線を膀胱癌に照射し治療します。体力的に手術が厳しい場合や膀胱を温存したい際の選択肢となります。全身化学療法や膀胱腫瘍の動脈内に抗癌剤を注入する動注化学療法と併用する治療を行うことも可能です。
癌が進行し、すでに転移を有するものに対して、主に選択されます。抗癌剤の治療は、従来のMVAC(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)療法やGC(ゲムシタビン、シスプラチン)療法に加えて、近年免疫チェックポイント阻害薬の治療も行われるようになりました。
また膀胱全摘除術の補助療法として抗癌剤治療を行うことで治療成績が向上するため、治療の選択肢となることがあります。
上皮内癌や非浸潤癌の治療目的で、抗癌剤やBCG(弱毒化したウシ結核菌)などの薬物を注入する膀胱内注入療法があります。内視鏡手術の後、癌の膀胱内再発を防ぐためにも行われます。副作用として、膀胱炎症状や萎縮膀胱などをおこすこともあります。
前立腺がん
前立腺がんは急速に増加しており、2017年には男性の新規罹患者数が最多となりました。発見のきっかけになるのは血液検査で、PSA(ピーエスエー)という腫瘍マーカーが検診や泌尿器科以外の診療科でも測定されるようになったためです。
PSAが高い場合には泌尿器科で直腸診やMRI検査を実施し、前立腺がんの疑いがあれば前立腺生検(専用の針で前立腺の組織を少量採取する検査)を実施します。採取した組織の病理診断で前立腺がんか否かを判定します。
前立腺がんと診断された場合には、画像検査で転移の有無をチェックし、がん細胞の悪性度も加味して治療方針を検討します。
転移のない場合
前立腺のみを標的とした治療となります。
- 手術療法
当院では手術支援ロボット:ダヴィンチXiを用いてロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術を実施しております。これまで500件以上実施し、治療成績も安定しています。手術の合併症として直腸などの他臓器損傷、勃起不全や尿失禁がありますが、前立腺以外の臓器損傷には十分注意して実施し、術後の尿失禁も手術方法や術後のリハビリによって約9割の方がほぼ失禁のない状態となっています。 - 放射線治療
放射線治療は、放射線を放出するシードを埋め込む小線源療法と、体外から放射線を照射する外照射を行っています。小線源療法は悪性度が低い(グリソンスコア3+4以下)早期がんの方に実施しています。外照射は、強度変調放射線治療(IMRT)を用いて行い、直腸への照射を減少させるためのスペーサー留置術も実施しています。 - ホルモン療法
ご高齢の方や合併症のある方、転移を伴っている方にはホルモン療法を実施しています。 - 去勢抵抗性前立腺癌
ホルモン療法が効かなくなった前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌とよびます。通常のホルモン療法では効果が期待できないため、新規アンドロゲン受容体標的薬(ARAT)や、抗がん剤による化学療法を実施します。
様々な治療がある前立腺癌では特に、診断から治療方針決定、治療まで情報提供と相談を行い、患者さんやご家族が納得して頂ける治療を安心して受けて頂けるよう努めています。
精巣腫瘍
精巣腫瘍は20代から40代の男性における、悪性腫瘍による死亡原因として最も頻度が高い腫瘍です。片方の精巣腫大、硬化によって発見されます。
診断は触診やエコー、血液検査、画像検査で行い、疑いがつよければ生検は実施せずに治療を開始します。
- 手術療法
高位精巣摘除術という、精巣とともに精巣上体や精索という索状物をできるだけ上まで追跡して切除します。片方の摘出であれば精子の形成や男性ホルモンの分泌に問題はありません。 - 化学療法
精巣腫瘍は肺やリンパ節に転移することが多く、その場合には高位精巣摘除の後に抗がん剤を用いた化学療法を行い、転移していた肺やリンパ節に生きたがん細胞がいないかどうか、再度の手術によって確認することがあります。 - 放射線療法
精巣腫瘍のうち、片方の高位精巣摘除によってセミノーマと診断された方は、進行度によっておなかに放射線照射を行うことがあります。また、脳転移には化学療法が効きにくいため、部位や大きさ、個数によっては頭に放射線療法を行うこともあります。
青壮年期に長期の治療が必要となる病気ですが、手術や抗がん剤を頑張れば十分治癒が期待できる悪性腫瘍です。陰嚢(精巣の入っている袋)の大きさが大きくなる、左右に差がある、硬くなっている、痛みがある、といった場合には是非勇気をだして泌尿器科を受診してください。受診から始まる治療期間中は、頑張って多くの検査や治療を受けて頂くことになりますが、受診が早いほど治療も短期間で終了することが多い傾向があります。
当院は、都道府県がん診療連携拠点病院として、最新のがん診療を提供しております。その一環として、採取したがん細胞のゲノム(遺伝子)を解析し、治療に使用できる可能性のある薬剤や行われている治験、臨床研究などを探すがんゲノム医療にも取り組んでいます。当院はがんゲノム医療連携病院として、がんゲノム医療中核拠点病院(慶應義塾大学病院)や院外の検査会社と連携し、島根県においてもがんゲノム医療をお届けしています。対象は泌尿器科領域の悪性腫瘍の方々で、採取したがんの組織や血液を用いてゲノムを解析し、結果を対面でご説明して治療方針を相談します。去勢抵抗性前立腺癌においては、BRCAという遺伝子を検索することで治療薬を選択するシステムを採用しています。
尿路結石は尿の通路に結石ができ、痛みや血尿のほか、尿の通過を邪魔して腎機能の悪化や重症感染症を引き起こす可能性があります。結石の場所によって腎、尿管、膀胱、尿道結石に分けられます。
結石は腎臓でプラークが形成され、結石へと成長して腎臓から剥がれ落ちてコロコロ移動することで症状を引き起こします。最も多いのは血尿と痛みですが、血尿は肉眼ではわからないこともあります。腎や尿管の結石による痛みは、右か左かがはっきりした背中、腰、下腹部に生じます。膀胱結石や尿道結石では下腹部痛や排尿痛がよく見られます。
腎結石
結石の多くは腎臓で形成されます。腎臓からはがれて尿管へ下降すると、尿の通過を妨げ、血尿や痛みを引き起こします。腎臓にあるまま大きくなってくることもあり、1cmをこえてくると治療を検討します。
尿管結石
腎結石が尿管に下降した状態で、血尿や痛みを引き起こします。尿の通過を妨げた状態が続くと腎機能が低下するため、経過を見て自然排石を期待するか、積極的な治療に踏み切るかの判断が重要となります。痛みが強い場合や、流れなくなった尿が腎から周囲に漏れ出している(溢流)場合には、尿管ステントや腎瘻といった処置や手術を実施します。
膀胱結石
腎から下降した結石が大きくなる場合と、排尿障害によって膀胱で結石が形成される場合があります。いずれにしても、自然に排出されない大きさであれば手術が必要となります。結石が膀胱の出口にはまり込んで尿が出せない場合には、手術まで尿道にカテーテルを留置して尿の通路を確保します。
尿道結石
膀胱から尿道へ移動した結石が尿道に停滞している状況で、男性に発生します。尿が出にくい、血尿が出る、尿とは関係なくペニスの先から出血している、などの症状があります。緊急的に内視鏡で結石をつかんで摘出できることが多いですが、難しい場合には膀胱瘻(下腹部からカテーテルを膀胱に直接留置する手術)を造設し、後日麻酔をかけた状態で手術します。
小さな結石の場合、水分摂取や運動で自然に結石が出る可能性があります。5mm以上の比較的大きな結石で自然な下降がみられない場合、手術を計画します。
- 手術療法
- 対外衝撃波結石破砕術
体の表面に当てた風船の内部電極がスパークすることで発生する衝撃波を、結石に集中させることで結石を破砕し、破片が尿とともに排出されます。通常のレントゲンで観察が可能な結石が対象となります。 - 経尿道的腎・尿管結石砕石術
麻酔がかかった状態で内視鏡を尿道から膀胱、尿管へと進め、結石をレーザーで破砕して破片を体外に取り出す手術です。最も広く行われている結石手術で、当院でも積極的に実施しています。 - 経皮的腎結石砕石術
麻酔がかかった状態で背中の皮膚から腎臓に直接針を刺し、針穴を広げて内視鏡を腎臓内に挿入し、レーザーで結石を破砕して破片を取り出す手術です。特に2cmを超える大きな腎結石でこの方法がよく行われます。 - ECIRS
経尿道的手術と経皮的手術を組み合わせた手術で、「エシルス」とよびます。結石を破砕する「砕石」と破砕片をとりだす「抽石」の効率が高いため、当院では積極的に実施しています。 - 手術は原則として2時間で終了し、複数回に分けて行うことで合併症を起こさないように努めています。
- 対外衝撃波結石破砕術
- 薬物療法
結石の成分によっては、結石溶解療法として薬物療法が有効なことがあります。尿酸結石がその代表です。その他の薬物療法として、小さな結石を排出させることを目的とした薬物療法を実施することもあります。また、結石の再発予防を目的として尿をアルカリ化したり利尿剤を用いたりすることもあります。 - 再発予防
結石の手術後は、5年で約半数の方々が再発する為、再発を予防する生活習慣が重要です。結石の成分によって異なりますが、水分摂取のほかにシュウ酸の接種制限や吸収抑制、適度なカルシウム摂取、薬物療法などがあります。そのために結石の成分分析、繰り返す方には尿の精密検査などを実施します。結石を繰り返すと腎機能が低下し、時に腎不全に至ることもあるため、注意が必要です。
前立腺肥大症
前立腺は膀胱から尿道の間に存在し、膀胱の出口付近の尿道を取り囲む臓器です。役割としては精液の一部を産生することで生殖に関わっています。前立腺が肥大すると尿道を圧迫することで、尿の通過障害による排尿症状を起こし、頻尿、夜間頻尿、残尿感、尿勢低下、尿線途絶、失禁、尿閉などの多彩な症状の原因となります。前立腺が肥大する前立腺肥大症は良性腫瘍ですが、前立腺癌と前立腺肥大症が同時に起こっていることも珍しくないため、治療開始前にしっかりと診断をすることが治療のためにも大切になります。また、治療開始時には前立腺肥大症と診断されている場合でも、時間経過と共に前立腺癌が発生し、排尿症状が増悪する場合があるので、定期的な受診が必要です。
治療
一言に前立腺肥大症と言っても、人それぞれに前立腺サイズの大小や排尿困難症状の強弱があるため、最良な治療選択を提示するため、様々な検査結果をもとに判断します。
上記のような検査を組み合わせて、治療提示を行います。
治療内容としては
薬物療法・外科治療(手術療法)・間欠的自己導尿・尿道カテーテル留置になります。
- 薬物療法
α-1遮断薬は前立腺肥大症に対する最も一般的な薬剤であり、日本では一般名でシロドシン、タムスロシン、ナフトピジルになります。1剤で治療効果が乏しい場合は、追加で効果の異なる薬剤を提示します。 - 外科治療(手術療法)
当院では2008年より高出力のホルミニウム・ヤグレーザーによる前立腺核出術(HoLEP)をメインで行っています。数ある手術方法の中でも、全世界で認められている標準的な手術になります。(詳細は HoLEP をご参照ください) - 間欠的自己導尿・尿道カテーテル留置
前立腺肥大症による尿閉症状に対して薬物療法・外科治療のいずれも奏効しない、もしくは行うことができない場合に尿道に管を入れることで体外に尿を排出します。
自己導尿は1日に決まった回数を定期的に行います。
尿道カテーテルは常時管を入れて、袋を付けることで常に体外に尿が排出される状態になります。毎月の管の交換が必要になります。
神経因性膀胱
膀胱は①尿をためる、②尿を絞り出す、という2つの役割があります。尿を出すには出口が開き、尿を膀胱が絞り出すことが同時にできなければなりませんが、①尿をためる、②膀胱が尿を絞り出す、ことができない状態となった膀胱を神経因性膀胱といいます。通常は②の尿が出しにくくなった神経因性膀胱が多くみられ、特徴は尿の勢いが悪く、測定すると残尿感がなくても残尿が多くなっている、ということです。
原因は糖尿病や二分脊椎などの神経の場合、尿の出口が細くて膀胱が頑張ることが続いて尿を絞り出す力が低下する前立腺肥大症や尿道狭窄、花粉症・感冒薬やパーキンソン病薬など尿の出口を閉じてしまう薬による薬剤性、原因がはっきりしない特発性があります。
尿を膀胱から出しきれない神経因性膀胱は、放置すると繰り返す尿路感染症、腎不全に至ることがあります。治療は、出口を開いて尿を絞り出す力を増強させる薬物療法、ご自身(ご家族)で尿道にカテーテルを入れて尿を出す自己導尿(介助導尿)、尿道にカテーテルをずっと入れておく尿道カテーテル留置があります。原因が尿道狭窄や前立腺肥大症の場合には、膀胱が完全に尿を絞り出せなくなる前に、手術を行うこともあります。
過活動膀胱
過活動膀胱とは、急に尿意をもよおし、尿を我慢がしづらい、急いでトイレに行かないと出そうになる、といった症状が特徴の症候群で、このような症状があって他の泌尿器科疾患を伴わないことで診断されます。頻尿があることが多く、ひどくなると間に合わなくて尿がもれる「切迫性尿失禁」も伴います。他の泌尿器科疾患を除外する為、検尿や超音波検査、場合によってはCTなどの検査を実施します。
1. 薬物療法
治療の基本は薬物療法で、自律神経に影響する薬剤を使用します。自律神経には、興奮に関連する交感神経と、リラックスに関連する副交感神経があり、お互いにバランスを保っています。排尿には自律神経が密接に関連しており、交感神経が有意なとき(例えば、喧嘩をしている最中)には尿意を感じず、副交感神経が有意なとき(例えば、自宅でリラックスしているとき)に、尿意を感じて排尿が促されます。過活動膀胱では、交感神経を相対的に優位にさせるための薬物療法が実施され、抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体刺激薬という種類の薬が用いられます。場合によっては複数の種類を同時に使用することもあります。薬によって尿の勢い(尿勢)が悪くなる、膀胱内に尿が残る(残尿が増える)ことがあり、特に男性では排尿障害の治療薬を併用することもあります。
2. ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法
薬物療法で改善の乏しい過活動膀胱には、A型ボツリヌス毒素を内視鏡で膀胱壁内に注入する治療を実施しています。令和2年より日本でも保険医療として実施することが可能となり、当院でも実施しています。全身麻酔や局所麻酔を実施し、尿道から内視鏡をいれて膀胱内を観察しながら、専用の針で膀胱の20か所に壁内(筋層内)注入していきます。実施時間は15-20分程度で終了し、数日で効果が表れます。副作用として、血尿、尿路感染症、排尿障害や残尿がふえること、アレルギー反応などがあげられますが、治療によって対応が可能であり、多くの方々が安全に実施できています。ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の効果は約半年持続し、効果が薄れてきたら再度実施することが可能です。当院では原則として1泊2日で実施しておりますが、日帰りで実施することも可能ですのでご相談ください。この治療は過活動膀胱のほか、脊髄損傷によって膀胱に尿が溜められない状態となった神経因性膀胱に実施することもあります。
3. 仙骨神経刺激療法(SNM)
麻酔がかかった状態で臀部(おしり)から専用の電極を挿入して仙骨神経を電気刺激し、効果があれば約2週間後に機器を埋め込む手術を実施します。2度の手術が1セットで、刺激によって効果が得られなければ2度目の手術は実施されません。当院ではこのSNM療法は実施しておりません。
尿失禁
- 間に合わなくてもれる「切迫性尿失禁」
過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁の場合、まず過活動膀胱に対する薬物療法を実施します。効果が、不十分であればボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法も保険診療で実施しています。膀胱結石や膀胱がんに伴う切迫性尿失禁であれば、原因を治療します。 - 腹圧がかかるときだけもれる「腹圧性尿失禁」
腹圧性尿失禁の場合に対する主な治療は、リハビリ療法、薬物療法、手術療法です。
リハビリには骨盤底筋体操という訓練が行われますが、要は肛門をギュッと占める運動によって尿道の筋肉(尿道括約筋)を締めることを目指すリハビリテーションです。パンフレットの配布や実際に体操を指導することで実施して頂きます。薬物療法はリハビリに対して補助的に行うことが多く、尿道括約筋を締める薬物を使用します。女性の腹圧性尿失禁に対しては、尿道を吊り上げるメッシュを用いたスリング手術や膀胱頚部挙上術が実施されますが、当院では実施しておりません。当院で実施している腹圧性尿失禁手術は 人工尿道括約筋埋没術で、前立腺がんや前立腺肥大症に対する手術の後に腹圧性尿失禁を来している男性が対象です。 - 切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁が両方ある「混合性尿失禁」
混合性尿失禁はメインとなる失禁に対して、リハビリや薬物療法など体に負担の少ない治療から実施していきます。 - 常にちょろちょろもれる「溢流性尿失禁」「真性尿失禁(全尿失禁)」
溢流性尿失禁は原因となっている前立腺肥大症や神経因性膀胱に対する治療を実施します。奇形を伴う真性尿失禁については、小児泌尿器科・小児外科と相談して手術療法などを実施します。 - 夜間に尿がもれる「夜尿症」
膀胱炎
膀胱炎は尿道から細菌が侵入し、膀胱内で炎症を起こしている状態です。症状として多いものは排尿痛、頻尿、残尿感で、時に血尿を伴うことがあります。発熱せず、発熱している場合には後述する腎盂腎炎、男性では前立腺炎や精巣上体炎を疑います。診断には検尿のほか、超音波検査などの画像検査を実施して泌尿器科で取り扱うような基礎疾患がないかどうか精密検査をします。膀胱炎の原因となるような疾患がない場合には(急性)単純性膀胱炎、排尿障害や結石など原因となる疾患がある場合には(慢性)複雑性膀胱炎と診断します。基礎疾患のない女性に起こる単純性膀胱炎の原因は約7割が大腸菌とされ、複雑性膀胱炎の場合には大腸菌以外の割合が増加して男性でも発生しえます。膀胱炎の治療は抗菌薬が主となりますが、抗菌薬で治療を行う前に尿の培養検査を実施して、薬剤耐性菌に備えます。複雑性膀胱炎では抗菌薬による治療とともに原因となる疾患の治療を行います。単純性膀胱炎を繰り返す場合には、生活習慣の改善が必要となることがあります。
治療
1. 抗菌薬
抗菌薬のうち、通常は経口薬(内服薬)を服用して頂きます。通常は3-7日の服用で治癒します。よく使用される抗菌薬が効かない大腸菌(キノロン耐性大腸菌、ESBL産生大腸菌)が分離される頻度・割合が増えてきており、注意が必要です。抗菌薬で治癒に至らない場合には、尿の培養検査の結果を振り返って別の抗菌薬による治療を行います。
2. 原因療法
残尿が増加する神経因性膀胱や、難治性となる尿路結石など、膀胱炎の原因となる疾患がある場合には抗菌薬と同時にそれらの治療も実施します。
3. 生活習慣の改善
泌尿器科疾患がないのに膀胱炎を繰り返す方々においては、再発予防のために以下のような生活指導を行っています。
- 尿を我慢しない。
- こまめに水分をとる
- 陰部を清潔に保つ(下着やパッドの交換)
- 寝る前に排尿する。
- 洗浄トイレは紙である程度きれいにしてから仕上げに行う。
- 月経(生理)開始から2週間は、洗浄トイレの「ビデ」を避ける。
- 性交後はシャワーや排尿をしてから睡眠をとる。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は膀胱に侵入した細菌が尿管から腎へと上行し、腎臓内で炎症を起こしている状態です。特徴としては38℃を超える発熱を起こすことで、感染がある側の背部や腰が痛くなることがあります。診断には検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査を実施して泌尿器科で取り扱うような基礎疾患がないかどうか精密検査をします。腎盂腎炎の原因となるような疾患がない場合には(急性)単純性腎盂腎炎として女性に発生し、排尿障害や結石など原因となる疾患がある場合には(慢性)複雑性腎盂腎炎と診断されます。基礎疾患のない女性に起こる単純性腎盂腎炎の原因はほとんど大腸菌とされており、複雑性腎盂腎炎の場合には大腸菌以外の割合が増加して男性でも発生しえます。腎盂腎炎の治療は抗菌薬が主となりますが、抗菌薬で治療を行う前に尿の培養検査を実施して、薬剤耐性菌に備えます。複雑性腎盂腎炎では抗菌薬による治療とともに、結石など原因となる疾患の治療を行います。
治療
1. 抗菌薬
抗菌薬のうち、軽症であれば経口薬、中等症以上では注射薬の点滴を受けて頂きます。中等症以上、水分や食事がとれなくなるような状態であれば入院での治療を行います。通常は7日の注射服用で症状は改善し、内服薬に切り替え、計2週間程度で治癒します。薬剤耐性菌が分離される頻度・割合が増えてきており、注意が必要です。抗菌薬で治癒に至らない場合には、尿の培養検査の結果を振り返って別の抗菌薬による治療を行います。
2. 原因療法
結石や腫瘍に伴う複雑性腎盂腎炎では、抗菌薬と同時にそれらの治療(原因療法)も実施します。場合によっては尿管ステントや腎瘻(じんろう)造設によって、流れが悪く腎臓にたまった尿を排出させる処置や手術が必要となり、腎盂腎炎が落ち着いてから原因療法を行います。
単純性腎盂腎炎を繰り返す場合、炎症が収まってから膀胱尿管逆流症(膀胱に下降した尿が尿管から腎臓へと逆流する状態)の合併について、排尿時膀胱造影という検査を行います。
前立腺炎
前立腺は男性に特有の臓器で、膀胱の出口に位置し、内部を尿道が通っています。尿道から侵入した細菌が膀胱に到達する前に前立腺に侵入でき、炎症を起こした状態が急性細菌性前立腺炎です。中高年以降の男性に発生し、頻尿、排尿痛、残尿感といった膀胱炎の症状に加え、特徴的なのは排尿困難感(尿が出にくい感覚)と38℃以上の発熱です。診断は検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査によって行われ、排尿障害を来す前立腺肥大症や神経因性膀胱などが無いかを検査します。青壮年で性感染症の原因となるクラミジアや淋菌で前立腺炎が起こることもあり、性感染症の原因になるような行為がないか問診することがあります。
治療
1. 抗菌薬
治療の中心は抗菌薬です。初めて発症した軽症な方であれば、内服薬で治療します。繰り返している方や中等症以上であれば、入院して点滴治療を行います。症状が治まってくれば注射薬を内服薬に変更し、2週間程度で治癒します。性感染症に伴う前立腺炎は比較的若い男性に多く、内服薬で治療することが多くなります。性感染症であれば検査で治癒判定を行うとともに、パートナーの治療についても相談します。
2. 尿道カテーテル留置
発症時に膀胱に多量の残尿が多くなっていれば排尿障害として、尿道カテーテルを留置して膀胱に尿がたまらないよう、膀胱の中の圧を上げないようにします。炎症が落ち着いてから薬物療法を実施しながらカテーテルを抜いてみます。排尿障害が改善していなければし再度留置することがあり、手術など今後の原因療法を検討します。
3. 手術療法
前立腺肥大症が原因となっている場合には、炎症が改善したのちに前立腺肥大症に対する手術を行います。手術によって尿の勢い(尿勢)が改善すると、細菌が侵入してくる際に尿で尿道が洗浄できるため、再発しにくくなります。当院で実施している前立腺肥大症に対する手術は、尿道から内視鏡を挿入して行う経尿道的手術で、経尿道的前立腺切除術(TURP、ティーユーアールピー)と経尿道的レーザー前立腺核出術(HoLEP、ホーレップ)です。現在はほとんどHoLEPのみ実施しており、治療成績も安定しています。
精巣上体炎
精巣上体は精巣に付着している臓器で、精子の運搬と成熟に関与しているとされています。通常は直径5-7mm程度、長さ3-4cm程度のひも状ですが、細菌が尿道から前立腺、精管を通って精巣上体で炎症を起こすと大きく腫れて痛みを伴います。38度以上の発熱を伴うことが多く、中高年以上の男性では排尿障害を伴っていることが多いとされています。診断は前立腺炎と同様、検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査によって行われ、排尿障害を来す前立腺肥大症や神経因性膀胱などが無いかを検査します。青壮年で性感染症の原因となるクラミジアや淋菌で精巣上体炎が起こることもあり、性感染症の原因になるような行為がないか問診することがあります。
治療
1. 抗菌薬
治療の中心は抗菌薬です。初めて発症した軽症な方であれば、内服薬で治療します。繰り返している方や中等症以上であれば、入院して点滴治療を行います。症状が治まってくれば注射薬を内服薬に変更し、2週間程度で治癒します。性感染症に伴う精巣上体炎は比較的若い男性に多く、内服薬で治療することが多くなります。性感染症であれば検査で治癒判定を行うとともに、パートナーの治療についても相談します。
2. 尿道カテーテル留置
発症時に膀胱に多量の残尿が多くなっていれば排尿障害として、尿道カテーテルを留置して膀胱に尿がたまらないよう、膀胱の中の圧を上げないようにします。炎症が落ち着いてから薬物療法を実施しながらカテーテルを抜いてみます。排尿障害が改善していなければし再度留置することがあり、前立腺肥大症に対する手術など、今後の原因療法を検討します。
性感染症(パートナーが陽性症例を含む)
性感染症は経腟性交だけではなく、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)も原因となります。性感染症の種類は多く、原因となる病原微生物も細菌、ウイルス、真菌、原虫など多彩です。ほとんどの性感染症は治癒しますが、進行した梅毒では回復しない後遺症に苦しんだり、性器ヘルペスや尖圭コンジローマはウイルスを体内から排除できず再発を繰り返したりします。HIVは抗ウイルス薬を服用し続ける必要があります。性感染症の課題はパートナーの治療であり、日本では医師法第10条「無診療治療の禁止」のため、受診していないパートナーの治療薬を処方することはできません。
尿道炎
尿道炎は男性における性感染症で最も頻度が高く、淋菌、クラミジア、マイコプラズマなどが原因となります。症状は尿道の違和感や痛み、排尿痛、尿道から膿が出る(排膿、はいのう)です。放置すると男性不妊症の原因となるとも報告されています。診断は問診(いつ、どこで性的な接触があったか)、検尿、尿中の病原微生物に対するPCRなどの核酸増幅検査で行われます。潜伏期(接触から発症までの期間)、膿の量や色調、痛みの強さなどによって淋菌性尿道炎と、その他の尿道炎(非淋菌性尿道炎)とを診断し、検査結果が到着する前に治療を開始します。治療は薬物療法で、淋菌性尿道炎には注射薬の単回投与(1回のみの注射)、クラミジア性尿道炎には単回投与もしくは7日間投与の内服薬となります。マイコプラズマは日本では検査や治療が保険適応になっていない問題があり、尿道炎症状があって淋菌もクラミジアも認められない場合に、マイコプラズマとして対応する、という現状にあります。淋菌とマイコプラズマは薬剤耐性化(抗菌薬が効きにくくなる)が問題となっており、使用できる薬剤が限られています。なかなか治らない、すぐに再発するような方はご相談ください。
性器ヘルペス
性器ヘルペスは、性器に痛みを伴う水疱(すいほう、水ぶくれ)やびらん(浅く皮がむけた状態)が発生する性感染症で、ヒトヘルペスウイルスが原因となります。唇に発生する口唇(こうしん)ヘルペスを起こす型のヘルペスウイルスが原因となることもあり、初めて感染した場合には症状が強いことが多いとされています。治療は内服薬が基本ですが、できるだけ早いうちに治療を開始することが重要で、水ぶくれが破れ、痂皮化(かさぶた)ができる頃に治療を開始しても有効性は低くなります。治療によって症状が治まっても、体内の神経節というところにウイルスは潜伏し、性行為や抵抗力の低下によって性器にヘルペスが再発します。再発を頻回に繰り返す方には再発予防を目的として内服薬を継続的に服用する治療が医療保険で受けられます。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルスが原因となる、疣贅(ゆうぜい、イボ)が陰部や肛門周囲にできる性感染症です。陰茎包皮(いんけいほうひ)や亀頭、肛門性交をうけた方の肛門周囲などに痛みのないイボができ、徐々に数が増えて大きくなって受診されます。治療は免疫調整薬の外用(塗布、ぬること)、液体窒素による凍結、電気焼灼、大きいものでは手術による切除を行います。イボは除去できても皮膚のウイルスは残存しているため、再発を繰り返します。問題は、いつからコンドームを使用しないセックスをしてもよいか?、という問いに対する明確な回答ができないことです。
梅毒
梅毒は日本で急激に増加している性感染症で、関東や関西といった都会だけでなく全国的に注意が必要な状況です。原因微生物は梅毒トレポネーマで、症状が多彩で、皮膚や粘膜をはじめ体内のあらゆる臓器に異常が認められます。男性の場合、性的接触から約3週ほどで陰茎に硬結(しこり)やびらん・潰瘍が、咽頭(のどの奥)に潰瘍などができ、しばらくすると自然に軽快します。1-3か月後に手足や皮膚など、全身に発疹などの異常がみられ、やがて軽快します。ここまでは早期梅毒で、他人に感染させる力が強いとされています。性的接触から1年以上経過した梅毒は後期梅毒と呼ばれ、感染力は低下していますが体内のあらゆる臓器に異常をきたします。特に血管の異常(動脈瘤)や中枢神経(麻痺や認知低下)の症状は重篤で、治療によって梅毒トレポネーマが駆除されても回復しません。無症状の場合は潜伏梅毒といい、治療の対象となります。
治療は薬物療法で、抗菌薬を1か月間内服する治療が行われてきましたが、令和3年11月にベンジルペニシリン(PCG)という注射薬が承認されました。PCGによって1回の注射で治療が実施できることとなりましたが、アレルギーなどの副作用やヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(投薬によって大量の梅毒トレポネーマが死滅することによる発熱などの症状、妊婦では子宮収縮が誘発され早産を引き起こす可能性がある)などの問題があり、医療者側の責任として慎重に使用する必要があります。
その他の性感染症
通常の性生活を2年間営んでも子供に恵まれない状態を不妊症といいます。一般的なカップルの約10-15%は不妊症といわれ、そのうち半分は男性側に原因があります。生殖補助医療技術の発展に伴い精子1つでも妊娠できる時代になり、顕微受精などが盛んに行われています。しかし、男性に原因があれば男性側の治療により自然妊娠、またはより軽い不妊治療で妊娠できるケースがあり、我々は男性不妊症の治療を積極的に行っています。もちろん患者さんの年齢や希望を考慮して人工授精や顕微受精も当院産婦人科と連携して行っており、ベストの治療方針をご提案いたします。(ただし、2022年3月時点で男性不妊に対する保険診療は認められておらず、検査・治療にかかる費用はすべて自費になることをご了承ください。)
代表的な疾患について説明いたします。
精索静脈瘤
男性因子として最も頻度の高い疾患です。精巣から心臓に返る静脈(蔓状静脈叢)に血流が停滞することにより陰嚢の温度が上がり、毒性物質の停滞が生じ精子形成を妨げます。圧倒的に左側に多く、一般男性の約20%に存在し、そのうち約20-30%の男性に精液所見の悪化を認めます。触診と超音波で診断します。下半身麻酔または全身麻酔下の顕微鏡下手術もしくは腹腔鏡下手術にて精索静脈を結紮する手術療法(低位結紮術、高位結紮術)を行います。3-4日の入院が必要です。術後6ヶ月で60-70%の患者さんに精液所見の改善、術後2年以内に30-40%の方が自然妊娠可能とされます。自然妊娠が無理でも精液所見の改善により、パートナーの不妊治療がより軽くなる可能性もあります。他の原因不明の精子形成障害を伴っていることがありますので手術をしても精液所見の改善が得られない場合は、次のステップの治療を開始します。
閉塞性無精子症
男性因子として2番目に頻度の高い疾患です。精路(精巣上体、精管、射精管)の閉塞により精子が精液の中に出てこられない状態です。精路を再建することにより自然妊娠も望めますが、当院ではまだ経験がありません。代替療法として精巣内精子回収術(TESE)を行い、人工授精や体外受精を行っております。TESEは局所麻酔による外来日帰り手術となります。
非閉塞性無精子症
精路の閉塞によらず精液中に精子がない状態です。顕微受精の進歩により精子1つでも妊娠できますので、精液中に精子がなくても精巣内でわずかに存在する精子を採取して(TESE)、顕微受精をします。左右どちらかの陰嚢の付け根に局所麻酔をし、1 cm程度陰嚢を切って精巣組織をとります。外来日帰り手術となります。それでも精子がない方には顕微鏡下精巣内精子採取術( MD-TESE)を行います。精巣の表面に精子が見つからなくても細部を観察することにより、精子を見つけられる可能性もあります。精巣を大きく切って手術用顕微鏡で内部を観察し、精子を作っていそうな太い精細管を採取します。全身麻酔で約2時間の手術で1-2日入院していただきます。TESEで精子が見つからなかった方もMD-TESEで約30%の方に精子が見つかります。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
脳下垂体から精子形成や男性ホルモンの分泌を精巣に促すホルモン(LHおよびFSH、まとめてゴナドトロピン)が十分に分泌されない状態です。そのため、精子形成のみならず男性ホルモンの欠如(陰毛やあごひげが生えない、声が高い、筋肉がつかない、性欲がない)などの症状を伴います。ホルモン負荷試験などの採血で診断します。先天性のことが多いですが、下垂体腫瘍によることもありますので頭部MRIも撮影します。治療はゴナドトロピン補充(週2-3回の皮下注射)を行いますが、自己注射が可能となったため通院は1~3ヶ月に1回程度で十分です。治療により約90%の患者さんに精子形成が改善します。
乏精子症
精液1mlあたり9000万から1億の精子が存在しますが、2000万以下を乏精子症といいます。精索静脈瘤がある場合は、まず精索静脈瘤の治療を行い、ホルモン異常がある場合は内服や注射でのホルモン療法を行います。しかし、原因不明の場合も多く、このような方に対してはビタミン剤や漢方など薬物治療を行い精液所見の改善を図ります。パートナーの年齢が高い場合には、人工授精や体外受精などと併行して治療することも多いです。また、生活習慣の改善も重要で、以下の項目に注意します。
元気な精子を作るための10カ条
- 規則正しい生活をしましょう。
- 適度な運動をしましょう。
- 飲酒は適量にしましょう。
- 禁煙しましょう。
- 過度の禁欲は避けましょう。週2-3回は射精しましょう。
- しめつけの強い下着は避けましょう。
- サウナ・長風呂は控えましょう。
- 膝上でのパソコン作業は控えましょう。
- 長時間の坐位やバイク・自転車の運転は控えましょう。
- 育毛剤は控えましょう。
腎出血
腎出血は何のきっかけもなく腎から尿路に向けて出血した状態で、血尿が出ます。例えば、鼻を触っていないのに鼻血がツーっとたれてくる、それが腎臓に起こった状態といえます。左右のどちらかで、痛みは伴わず、しばらくするとまた血尿がなくなる、という状態を繰り返します。血尿が濃いくて血塊(血の塊)が尿管を塞ぐと、尿管結石のような腰、背部に痛みを感じます。20-40代に多く見られます。診断は血尿を来す結石や悪性腫瘍を除外することが重要で、検尿、がん細胞が尿にでていないかをみる尿細胞診、造影CT検査を行います。出血しているときに膀胱鏡をすると、左右どちらの腎からの出血かが判明します。出血の原因として、血尿の原因として腎乳頭の微小血管が破れたもの(MVR)、拡張した静脈から出血したもの(静脈瘤)、血管腫が挙げられ、ナッツクラッカー現象との関連も指摘されています。治療は出血しているときに全身麻酔で尿管鏡を実施し、出血点を確かめて電気凝固による止血を実施します。数%で繰り返すことがあり、同様の手術を実施します。
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は頻尿や膀胱痛、膀胱不快感を中心とした症状を呈し、膀胱鏡で膀胱粘膜に特有の発赤病変(ハンナ病変)を認める疾患です。難治性で病因も特定されておりません。診断は画像診断を含む各種検査で結石や悪性腫瘍、感染症などの異常がなく、膀胱鏡所見で診断します。症状に応じた薬物療法や生活改善のほか、麻酔をかけた状態で膀胱に生理食塩水を注入し、水圧で膀胱を広げるという治療(膀胱水圧拡張)が行われてきました。ある程度の有効性が報告されていますが、最近では膀胱内に麻酔薬を注入したのちに、ジメチルスルホキシド(商品名: ジムソ)という薬品を注入する治療が令和3年から開始されました。当院でも実施しておりますので、がんこな膀胱痛や頻尿、尿意切迫感などの症状のある方、他院で間質性膀胱炎と診断された方々は、是非ご相談ください。
慢性骨盤痛症候群(CP・BPS含む)
以前は、男性の慢性前立腺炎、男性・女性共に罹患する間質性膀胱炎と呼ばれていた下腹部や陰部の痛みを首相譲渡する症候群は、慢性骨盤痛症候群(CPPS)という概念で捉えられています。分類に伴い、男性の慢性前立腺炎のうち感染を伴うものは感染症として取り扱い、感染のない慢性前立腺炎(いわゆるCP)がCPPSの概念に組み込まれました。間質性膀胱炎では、ハンナ病変や点状出血を認めず頻尿や尿意切迫感、膀胱痛などを有さないものを膀胱痛症候群(BPS)とし、CPPSとして取り扱っています。
CPPSの診断は痛みや不快感、排尿を中心とした症状で、時に骨格筋の痙攣やうつ病などで症状を呈することがあります。検尿や尿細胞診、腹部超音波検査やCTといった画像診断でも異常がないことが多く、健診でも問題ないとされてしまいます。痛みや不快感は本人にしかわからず、周囲の理解が得られないことも苦痛となります。治療は薬物療法が中心で、前立腺肥大症や過活動膀胱などに使用する薬物を中心に投薬治療を行います。漢方や植物製剤、鍼灸などの有効性も報告されています。最近では、いくつかの問診票を使って症状を種類分けし、その症状に応じた治療を行っていくことが始められています(UPOINTS、ユーポインツ)。まだまだ未開の領域であるため、薬や手術でスパッと治ることはありませんが、苦痛を共有して改善にむけた治療を進めさせて頂きます。