排尿・蓄尿障害

前立腺肥大症

前立腺は膀胱から尿道の間に存在し、膀胱の出口付近の尿道を取り囲む臓器です。役割としては精液の一部を産生することで生殖に関わっています。前立腺が肥大すると尿道を圧迫することで、尿の通過障害による排尿症状を起こし、頻尿、夜間頻尿、残尿感、尿勢低下、尿線途絶、失禁、尿閉などの多彩な症状の原因となります。前立腺が肥大する前立腺肥大症は良性腫瘍ですが、前立腺癌と前立腺肥大症が同時に起こっていることも珍しくないため、治療開始前にしっかりと診断をすることが治療のためにも大切になります。また、治療開始時には前立腺肥大症と診断されている場合でも、時間経過と共に前立腺癌が発生し、排尿症状が増悪する場合があるので、定期的な受診が必要です。

治療

一言に前立腺肥大症と言っても、人それぞれに前立腺サイズの大小や排尿困難症状の強弱があるため、最良な治療選択を提示するため、様々な検査結果をもとに判断します。

排尿日誌、尿検査、PSA、国際前立腺肥大症スコア(IPSS)、過活動膀胱スコア(OABSS)、残尿量、尿流測定、前立腺体積(超音波もしくはMRI)、膀胱鏡、その他の基礎疾患、生活習慣

上記のような検査を組み合わせて、治療提示を行います。

治療内容としては

薬物療法・外科治療(手術療法)・間欠的自己導尿・尿道カテーテル留置になります。

  1. 薬物療法
    α-1遮断薬は前立腺肥大症に対する最も一般的な薬剤であり、日本では一般名でシロドシン、タムスロシン、ナフトピジルになります。1剤で治療効果が乏しい場合は、追加で効果の異なる薬剤を提示します。
  2. 外科治療(手術療法)
    当院では2008年より高出力のホルミニウム・ヤグレーザーによる前立腺核出術(HoLEP)をメインで行っています。数ある手術方法の中でも、全世界で認められている標準的な手術になります。(詳細は HoLEP をご参照ください)
  3. 間欠的自己導尿・尿道カテーテル留置
    前立腺肥大症による尿閉症状に対して薬物療法・外科治療のいずれも奏効しない、もしくは行うことができない場合に尿道に管を入れることで体外に尿を排出します。
    自己導尿は1日に決まった回数を定期的に行います。
    尿道カテーテルは常時管を入れて、袋を付けることで常に体外に尿が排出される状態になります。毎月の管の交換が必要になります。

神経因性膀胱

膀胱は①尿をためる、②尿を絞り出す、という2つの役割があります。尿を出すには出口が開き、尿を膀胱が絞り出すことが同時にできなければなりませんが、①尿をためる、②膀胱が尿を絞り出す、ことができない状態となった膀胱を神経因性膀胱といいます。通常は②の尿が出しにくくなった神経因性膀胱が多くみられ、特徴は尿の勢いが悪く、測定すると残尿感がなくても残尿が多くなっている、ということです。

原因は糖尿病や二分脊椎などの神経の場合、尿の出口が細くて膀胱が頑張ることが続いて尿を絞り出す力が低下する前立腺肥大症や尿道狭窄、花粉症・感冒薬やパーキンソン病薬など尿の出口を閉じてしまう薬による薬剤性、原因がはっきりしない特発性があります。

尿を膀胱から出しきれない神経因性膀胱は、放置すると繰り返す尿路感染症、腎不全に至ることがあります。治療は、出口を開いて尿を絞り出す力を増強させる薬物療法、ご自身(ご家族)で尿道にカテーテルを入れて尿を出す自己導尿(介助導尿)、尿道にカテーテルをずっと入れておく尿道カテーテル留置があります。原因が尿道狭窄や前立腺肥大症の場合には、膀胱が完全に尿を絞り出せなくなる前に、手術を行うこともあります。

過活動膀胱

過活動膀胱とは、急に尿意をもよおし、尿を我慢がしづらい、急いでトイレに行かないと出そうになる、といった症状が特徴の症候群で、このような症状があって他の泌尿器科疾患を伴わないことで診断されます。頻尿があることが多く、ひどくなると間に合わなくて尿がもれる「切迫性尿失禁」も伴います。他の泌尿器科疾患を除外する為、検尿や超音波検査、場合によってはCTなどの検査を実施します。

1. 薬物療法

治療の基本は薬物療法で、自律神経に影響する薬剤を使用します。自律神経には、興奮に関連する交感神経と、リラックスに関連する副交感神経があり、お互いにバランスを保っています。排尿には自律神経が密接に関連しており、交感神経が有意なとき(例えば、喧嘩をしている最中)には尿意を感じず、副交感神経が有意なとき(例えば、自宅でリラックスしているとき)に、尿意を感じて排尿が促されます。過活動膀胱では、交感神経を相対的に優位にさせるための薬物療法が実施され、抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体刺激薬という種類の薬が用いられます。場合によっては複数の種類を同時に使用することもあります。薬によって尿の勢い(尿勢)が悪くなる、膀胱内に尿が残る(残尿が増える)ことがあり、特に男性では排尿障害の治療薬を併用することもあります。

2. ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

薬物療法で改善の乏しい過活動膀胱には、A型ボツリヌス毒素を内視鏡で膀胱壁内に注入する治療を実施しています。令和2年より日本でも保険医療として実施することが可能となり、当院でも実施しています。全身麻酔や局所麻酔を実施し、尿道から内視鏡をいれて膀胱内を観察しながら、専用の針で膀胱の20か所に壁内(筋層内)注入していきます。実施時間は15-20分程度で終了し、数日で効果が表れます。副作用として、血尿、尿路感染症、排尿障害や残尿がふえること、アレルギー反応などがあげられますが、治療によって対応が可能であり、多くの方々が安全に実施できています。ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の効果は約半年持続し、効果が薄れてきたら再度実施することが可能です。当院では原則として1泊2日で実施しておりますが、日帰りで実施することも可能ですのでご相談ください。この治療は過活動膀胱のほか、脊髄損傷によって膀胱に尿が溜められない状態となった神経因性膀胱に実施することもあります。

3. 仙骨神経刺激療法(SNM)

麻酔がかかった状態で臀部(おしり)から専用の電極を挿入して仙骨神経を電気刺激し、効果があれば約2週間後に機器を埋め込む手術を実施します。2度の手術が1セットで、刺激によって効果が得られなければ2度目の手術は実施されません。当院ではこのSNM療法は実施しておりません。

尿失禁

  1. 間に合わなくてもれる「切迫性尿失禁
    過活動膀胱に伴う切迫性尿失禁の場合、まず過活動膀胱に対する薬物療法を実施します。効果が、不十分であればボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法も保険診療で実施しています。膀胱結石や膀胱がんに伴う切迫性尿失禁であれば、原因を治療します。
  2. 腹圧がかかるときだけもれる「腹圧性尿失禁
    腹圧性尿失禁の場合に対する主な治療は、リハビリ療法、薬物療法、手術療法です。
    リハビリには骨盤底筋体操という訓練が行われますが、要は肛門をギュッと占める運動によって尿道の筋肉(尿道括約筋)を締めることを目指すリハビリテーションです。パンフレットの配布や実際に体操を指導することで実施して頂きます。薬物療法はリハビリに対して補助的に行うことが多く、尿道括約筋を締める薬物を使用します。女性の腹圧性尿失禁に対しては、尿道を吊り上げるメッシュを用いたスリング手術や膀胱頚部挙上術が実施されますが、当院では実施しておりません。当院で実施している腹圧性尿失禁手術は 人工尿道括約筋埋没術で、前立腺がんや前立腺肥大症に対する手術の後に腹圧性尿失禁を来している男性が対象です。
  3. 切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁が両方ある「混合性尿失禁
     混合性尿失禁はメインとなる失禁に対して、リハビリや薬物療法など体に負担の少ない治療から実施していきます。
  4. 常にちょろちょろもれる「溢流性尿失禁」「真性尿失禁(全尿失禁)
     溢流性尿失禁は原因となっている前立腺肥大症や神経因性膀胱に対する治療を実施します。奇形を伴う真性尿失禁については、小児泌尿器科・小児外科と相談して手術療法などを実施します。
  5. 夜間に尿がもれる「夜尿症