感染症

膀胱炎

膀胱炎は尿道から細菌が侵入し、膀胱内で炎症を起こしている状態です。症状として多いものは排尿痛、頻尿、残尿感で、時に血尿を伴うことがあります。発熱せず、発熱している場合には後述する腎盂腎炎、男性では前立腺炎や精巣上体炎を疑います。診断には検尿のほか、超音波検査などの画像検査を実施して泌尿器科で取り扱うような基礎疾患がないかどうか精密検査をします。膀胱炎の原因となるような疾患がない場合には(急性)単純性膀胱炎、排尿障害や結石など原因となる疾患がある場合には(慢性)複雑性膀胱炎と診断します。基礎疾患のない女性に起こる単純性膀胱炎の原因は約7割が大腸菌とされ、複雑性膀胱炎の場合には大腸菌以外の割合が増加して男性でも発生しえます。膀胱炎の治療は抗菌薬が主となりますが、抗菌薬で治療を行う前に尿の培養検査を実施して、薬剤耐性菌に備えます。複雑性膀胱炎では抗菌薬による治療とともに原因となる疾患の治療を行います。単純性膀胱炎を繰り返す場合には、生活習慣の改善が必要となることがあります。

治療

1. 抗菌薬

抗菌薬のうち、通常は経口薬(内服薬)を服用して頂きます。通常は3-7日の服用で治癒します。よく使用される抗菌薬が効かない大腸菌(キノロン耐性大腸菌、ESBL産生大腸菌)が分離される頻度・割合が増えてきており、注意が必要です。抗菌薬で治癒に至らない場合には、尿の培養検査の結果を振り返って別の抗菌薬による治療を行います。

2. 原因療法

残尿が増加する神経因性膀胱や、難治性となる尿路結石など、膀胱炎の原因となる疾患がある場合には抗菌薬と同時にそれらの治療も実施します。

3. 生活習慣の改善

泌尿器科疾患がないのに膀胱炎を繰り返す方々においては、再発予防のために以下のような生活指導を行っています。

  1. 尿を我慢しない。
  2. こまめに水分をとる
  3. 陰部を清潔に保つ(下着やパッドの交換)
  4. 寝る前に排尿する。
  5. 洗浄トイレは紙である程度きれいにしてから仕上げに行う。
  6. 月経(生理)開始から2週間は、洗浄トイレの「ビデ」を避ける。
  7. 性交後はシャワーや排尿をしてから睡眠をとる。

腎盂腎炎

腎盂腎炎は膀胱に侵入した細菌が尿管から腎へと上行し、腎臓内で炎症を起こしている状態です。特徴としては38℃を超える発熱を起こすことで、感染がある側の背部や腰が痛くなることがあります。診断には検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査を実施して泌尿器科で取り扱うような基礎疾患がないかどうか精密検査をします。腎盂腎炎の原因となるような疾患がない場合には(急性)単純性腎盂腎炎として女性に発生し、排尿障害や結石など原因となる疾患がある場合には(慢性)複雑性腎盂腎炎と診断されます。基礎疾患のない女性に起こる単純性腎盂腎炎の原因はほとんど大腸菌とされており、複雑性腎盂腎炎の場合には大腸菌以外の割合が増加して男性でも発生しえます。腎盂腎炎の治療は抗菌薬が主となりますが、抗菌薬で治療を行う前に尿の培養検査を実施して、薬剤耐性菌に備えます。複雑性腎盂腎炎では抗菌薬による治療とともに、結石など原因となる疾患の治療を行います。

治療

1. 抗菌薬

抗菌薬のうち、軽症であれば経口薬、中等症以上では注射薬の点滴を受けて頂きます。中等症以上、水分や食事がとれなくなるような状態であれば入院での治療を行います。通常は7日の注射服用で症状は改善し、内服薬に切り替え、計2週間程度で治癒します。薬剤耐性菌が分離される頻度・割合が増えてきており、注意が必要です。抗菌薬で治癒に至らない場合には、尿の培養検査の結果を振り返って別の抗菌薬による治療を行います。

2. 原因療法

結石や腫瘍に伴う複雑性腎盂腎炎では、抗菌薬と同時にそれらの治療(原因療法)も実施します。場合によっては尿管ステントや腎瘻(じんろう)造設によって、流れが悪く腎臓にたまった尿を排出させる処置や手術が必要となり、腎盂腎炎が落ち着いてから原因療法を行います。

単純性腎盂腎炎を繰り返す場合、炎症が収まってから膀胱尿管逆流症(膀胱に下降した尿が尿管から腎臓へと逆流する状態)の合併について、排尿時膀胱造影という検査を行います。

前立腺炎

前立腺は男性に特有の臓器で、膀胱の出口に位置し、内部を尿道が通っています。尿道から侵入した細菌が膀胱に到達する前に前立腺に侵入でき、炎症を起こした状態が急性細菌性前立腺炎です。中高年以降の男性に発生し、頻尿、排尿痛、残尿感といった膀胱炎の症状に加え、特徴的なのは排尿困難感(尿が出にくい感覚)と38℃以上の発熱です。診断は検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査によって行われ、排尿障害を来す前立腺肥大症や神経因性膀胱などが無いかを検査します。青壮年で性感染症の原因となるクラミジアや淋菌で前立腺炎が起こることもあり、性感染症の原因になるような行為がないか問診することがあります。

治療

1. 抗菌薬

治療の中心は抗菌薬です。初めて発症した軽症な方であれば、内服薬で治療します。繰り返している方や中等症以上であれば、入院して点滴治療を行います。症状が治まってくれば注射薬を内服薬に変更し、2週間程度で治癒します。性感染症に伴う前立腺炎は比較的若い男性に多く、内服薬で治療することが多くなります。性感染症であれば検査で治癒判定を行うとともに、パートナーの治療についても相談します。

2. 尿道カテーテル留置

発症時に膀胱に多量の残尿が多くなっていれば排尿障害として、尿道カテーテルを留置して膀胱に尿がたまらないよう、膀胱の中の圧を上げないようにします。炎症が落ち着いてから薬物療法を実施しながらカテーテルを抜いてみます。排尿障害が改善していなければし再度留置することがあり、手術など今後の原因療法を検討します。

3. 手術療法

前立腺肥大症が原因となっている場合には、炎症が改善したのちに前立腺肥大症に対する手術を行います。手術によって尿の勢い(尿勢)が改善すると、細菌が侵入してくる際に尿で尿道が洗浄できるため、再発しにくくなります。当院で実施している前立腺肥大症に対する手術は、尿道から内視鏡を挿入して行う経尿道的手術で、経尿道的前立腺切除術(TURP、ティーユーアールピー)と経尿道的レーザー前立腺核出術(HoLEP、ホーレップ)です。現在はほとんどHoLEPのみ実施しており、治療成績も安定しています。

精巣上体炎

精巣上体は精巣に付着している臓器で、精子の運搬と成熟に関与しているとされています。通常は直径5-7mm程度、長さ3-4cm程度のひも状ですが、細菌が尿道から前立腺、精管を通って精巣上体で炎症を起こすと大きく腫れて痛みを伴います。38度以上の発熱を伴うことが多く、中高年以上の男性では排尿障害を伴っていることが多いとされています。診断は前立腺炎と同様、検尿や採血のほか、超音波検査・CTなどの画像検査によって行われ、排尿障害を来す前立腺肥大症や神経因性膀胱などが無いかを検査します。青壮年で性感染症の原因となるクラミジアや淋菌で精巣上体炎が起こることもあり、性感染症の原因になるような行為がないか問診することがあります。

治療

1. 抗菌薬

治療の中心は抗菌薬です。初めて発症した軽症な方であれば、内服薬で治療します。繰り返している方や中等症以上であれば、入院して点滴治療を行います。症状が治まってくれば注射薬を内服薬に変更し、2週間程度で治癒します。性感染症に伴う精巣上体炎は比較的若い男性に多く、内服薬で治療することが多くなります。性感染症であれば検査で治癒判定を行うとともに、パートナーの治療についても相談します。

2. 尿道カテーテル留置

発症時に膀胱に多量の残尿が多くなっていれば排尿障害として、尿道カテーテルを留置して膀胱に尿がたまらないよう、膀胱の中の圧を上げないようにします。炎症が落ち着いてから薬物療法を実施しながらカテーテルを抜いてみます。排尿障害が改善していなければし再度留置することがあり、前立腺肥大症に対する手術など、今後の原因療法を検討します。

性感染症(パートナーが陽性症例を含む)

性感染症は経腟性交だけではなく、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)も原因となります。性感染症の種類は多く、原因となる病原微生物も細菌、ウイルス、真菌、原虫など多彩です。ほとんどの性感染症は治癒しますが、進行した梅毒では回復しない後遺症に苦しんだり、性器ヘルペスや尖圭コンジローマはウイルスを体内から排除できず再発を繰り返したりします。HIVは抗ウイルス薬を服用し続ける必要があります。性感染症の課題はパートナーの治療であり、日本では医師法第10条「無診療治療の禁止」のため、受診していないパートナーの治療薬を処方することはできません。

尿道炎

尿道炎は男性における性感染症で最も頻度が高く、淋菌、クラミジア、マイコプラズマなどが原因となります。症状は尿道の違和感や痛み、排尿痛、尿道から膿が出る(排膿、はいのう)です。放置すると男性不妊症の原因となるとも報告されています。診断は問診(いつ、どこで性的な接触があったか)、検尿、尿中の病原微生物に対するPCRなどの核酸増幅検査で行われます。潜伏期(接触から発症までの期間)、膿の量や色調、痛みの強さなどによって淋菌性尿道炎と、その他の尿道炎(非淋菌性尿道炎)とを診断し、検査結果が到着する前に治療を開始します。治療は薬物療法で、淋菌性尿道炎には注射薬の単回投与(1回のみの注射)、クラミジア性尿道炎には単回投与もしくは7日間投与の内服薬となります。マイコプラズマは日本では検査や治療が保険適応になっていない問題があり、尿道炎症状があって淋菌もクラミジアも認められない場合に、マイコプラズマとして対応する、という現状にあります。淋菌とマイコプラズマは薬剤耐性化(抗菌薬が効きにくくなる)が問題となっており、使用できる薬剤が限られています。なかなか治らない、すぐに再発するような方はご相談ください。

性器ヘルペス

性器ヘルペスは、性器に痛みを伴う水疱(すいほう、水ぶくれ)やびらん(浅く皮がむけた状態)が発生する性感染症で、ヒトヘルペスウイルスが原因となります。唇に発生する口唇(こうしん)ヘルペスを起こす型のヘルペスウイルスが原因となることもあり、初めて感染した場合には症状が強いことが多いとされています。治療は内服薬が基本ですが、できるだけ早いうちに治療を開始することが重要で、水ぶくれが破れ、痂皮化(かさぶた)ができる頃に治療を開始しても有効性は低くなります。治療によって症状が治まっても、体内の神経節というところにウイルスは潜伏し、性行為や抵抗力の低下によって性器にヘルペスが再発します。再発を頻回に繰り返す方には再発予防を目的として内服薬を継続的に服用する治療が医療保険で受けられます。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルスが原因となる、疣贅(ゆうぜい、イボ)が陰部や肛門周囲にできる性感染症です。陰茎包皮(いんけいほうひ)や亀頭、肛門性交をうけた方の肛門周囲などに痛みのないイボができ、徐々に数が増えて大きくなって受診されます。治療は免疫調整薬の外用(塗布、ぬること)、液体窒素による凍結、電気焼灼、大きいものでは手術による切除を行います。イボは除去できても皮膚のウイルスは残存しているため、再発を繰り返します。問題は、いつからコンドームを使用しないセックスをしてもよいか?、という問いに対する明確な回答ができないことです。

梅毒

梅毒は日本で急激に増加している性感染症で、関東や関西といった都会だけでなく全国的に注意が必要な状況です。原因微生物は梅毒トレポネーマで、症状が多彩で、皮膚や粘膜をはじめ体内のあらゆる臓器に異常が認められます。男性の場合、性的接触から約3週ほどで陰茎に硬結(しこり)やびらん・潰瘍が、咽頭(のどの奥)に潰瘍などができ、しばらくすると自然に軽快します。1-3か月後に手足や皮膚など、全身に発疹などの異常がみられ、やがて軽快します。ここまでは早期梅毒で、他人に感染させる力が強いとされています。性的接触から1年以上経過した梅毒は後期梅毒と呼ばれ、感染力は低下していますが体内のあらゆる臓器に異常をきたします。特に血管の異常(動脈瘤)や中枢神経(麻痺や認知低下)の症状は重篤で、治療によって梅毒トレポネーマが駆除されても回復しません。無症状の場合は潜伏梅毒といい、治療の対象となります。

治療は薬物療法で、抗菌薬を1か月間内服する治療が行われてきましたが、令和3年11月にベンジルペニシリン(PCG)という注射薬が承認されました。PCGによって1回の注射で治療が実施できることとなりましたが、アレルギーなどの副作用やヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(投薬によって大量の梅毒トレポネーマが死滅することによる発熱などの症状、妊婦では子宮収縮が誘発され早産を引き起こす可能性がある)などの問題があり、医療者側の責任として慎重に使用する必要があります。

その他の性感染症