通常の性生活を2年間営んでも子供に恵まれない状態を不妊症といいます。一般的なカップルの約10-15%は不妊症といわれ、そのうち半分は男性側に原因があります。生殖補助医療技術の発展に伴い精子1つでも妊娠できる時代になり、顕微受精などが盛んに行われています。しかし、男性に原因があれば男性側の治療により自然妊娠、またはより軽い不妊治療で妊娠できるケースがあり、我々は男性不妊症の治療を積極的に行っています。もちろん患者さんの年齢や希望を考慮して人工授精や顕微受精も当院産婦人科と連携して行っており、ベストの治療方針をご提案いたします。(ただし、2022年4月時点で男性不妊に対する保険診療が認められました。それらの検査・治療にかかる費用はすべて医療保険でまかなわれます。)
代表的な疾患について説明いたします。
精索静脈瘤
男性因子として最も頻度の高い疾患です。精巣から心臓に返る静脈(蔓状静脈叢)に血流が停滞することにより陰嚢の温度が上がり、毒性物質の停滞が生じ精子形成を妨げます。圧倒的に左側に多く、一般男性の約20%に存在し、そのうち約20-30%の男性に精液所見の悪化を認めます。触診と超音波で診断します。下半身麻酔または全身麻酔下の顕微鏡下手術もしくは腹腔鏡下手術にて精索静脈を結紮する手術療法(低位結紮術、高位結紮術)を行います。3-4日の入院が必要です。術後6ヶ月で60-70%の患者さんに精液所見の改善、術後2年以内に30-40%の方が自然妊娠可能とされます。自然妊娠が無理でも精液所見の改善により、パートナーの不妊治療がより軽くなる可能性もあります。他の原因不明の精子形成障害を伴っていることがありますので手術をしても精液所見の改善が得られない場合は、次のステップの治療を開始します。
閉塞性無精子症
男性因子として2番目に頻度の高い疾患です。精路(精巣上体、精管、射精管)の閉塞により精子が精液の中に出てこられない状態です。精路を再建することにより自然妊娠も望めますが、当院ではまだ経験がありません。代替療法として精巣内精子回収術(TESE)を行い、人工授精や体外受精を行っております。TESEは局所麻酔による外来日帰り手術となります。
非閉塞性無精子症
精路の閉塞によらず精液中に精子がない状態です。顕微受精の進歩により精子1つでも妊娠できますので、精液中に精子がなくても精巣内でわずかに存在する精子を採取して(TESE)、顕微受精をします。左右どちらかの陰嚢の付け根に局所麻酔をし、1 cm程度陰嚢を切って精巣組織をとります。外来日帰り手術となります。それでも精子がない方には顕微鏡下精巣内精子採取術( MD-TESE)を行います。精巣の表面に精子が見つからなくても細部を観察することにより、精子を見つけられる可能性もあります。精巣を大きく切って手術用顕微鏡で内部を観察し、精子を作っていそうな太い精細管を採取します。全身麻酔で約2時間の手術で1-2日入院していただきます。TESEで精子が見つからなかった方もMD-TESEで約30%の方に精子が見つかります。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
脳下垂体から精子形成や男性ホルモンの分泌を精巣に促すホルモン(LHおよびFSH、まとめてゴナドトロピン)が十分に分泌されない状態です。そのため、精子形成のみならず男性ホルモンの欠如(陰毛やあごひげが生えない、声が高い、筋肉がつかない、性欲がない)などの症状を伴います。ホルモン負荷試験などの採血で診断します。先天性のことが多いですが、下垂体腫瘍によることもありますので頭部MRIも撮影します。治療はゴナドトロピン補充(週2-3回の皮下注射)を行いますが、自己注射が可能となったため通院は1~3ヶ月に1回程度で十分です。治療により約90%の患者さんに精子形成が改善します。
乏精子症
精液1mlあたり9000万から1億の精子が存在しますが、2000万以下を乏精子症といいます。精索静脈瘤がある場合は、まず精索静脈瘤の治療を行い、ホルモン異常がある場合は内服や注射でのホルモン療法を行います。しかし、原因不明の場合も多く、このような方に対してはビタミン剤や漢方など薬物治療を行い精液所見の改善を図ります。パートナーの年齢が高い場合には、人工授精や体外受精などと併行して治療することも多いです。また、生活習慣の改善も重要で、以下の項目に注意します。
元気な精子を作るための10カ条
- 規則正しい生活をしましょう。
- 適度な運動をしましょう。
- 飲酒は適量にしましょう。
- 禁煙しましょう。
- 過度の禁欲は避けましょう。週2-3回は射精しましょう。
- しめつけの強い下着は避けましょう。
- サウナ・長風呂は控えましょう。
- 膝上でのパソコン作業は控えましょう。
- 長時間の坐位やバイク・自転車の運転は控えましょう。
- 育毛剤は控えましょう。